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防衛省が、電磁力で砲弾を高速発射する「レールガン」(電磁砲)の開発を来年度から本格化させる。先行していた米海軍は開発を中断し、日本が民間の大容量電源技術でリードしたい考えだ。高速で飛来する極超音速兵器の迎撃に道を開くため、ミサイル防衛の切り札として期待される。防衛省は来年度予算案に65億円を計上し、電源開発費も追加したうえで、5年後以降の試験運用を目指す。
レールガンは電磁力で砲弾を射出するため、爆薬で砲弾を飛ばすよりも高速で撃つことができ、連射も可能だ。ロシアや北朝鮮が開発を進める極超音速兵器は音速の5倍(マッハ5)以上とされるが、平成29年度から始めた防衛省の試作では秒速2千メートル(時速7200キロ、マッハ約5・8)の高速度を実現した。
米海軍の研究では200キロの長射程射撃が可能で、極超音速兵器を迎撃する上で有効性がある。さらに、他の迎撃手段よりも軽量かつ低価格で装備できる。
艦艇などに多数配備することで一度に対処できる弾頭数を大幅に増やし、一斉攻撃への対処力が格段に向上する。一方、強い電磁力を連続で発生させるには、一般家庭数千世帯の年間消費電力分に匹敵する電力を供給する大容量電源が必要となる。
レールガン開発では米海軍が10年以上前から先行していたが、米軍は2022会計年度への予算計上を断念した。陸上での実験には成功したものの艦艇搭載型の開発に至らなかった。米軍は「技術的目標は達成した」(防衛省幹部)と説明したが、艦艇に搭載できる小型で大容量の電源開発がネックになったとされる。
日本では民間企業を中心に電源技術開発が進んでおり、米国より優位に立つ。防衛省は来年度予算案にレールガン本体の研究開発費65億円を計上した。さらに、戦闘の局面を一変させ得る「ゲームチェンジャー」の早期実用化予算として盛り込んだ84億円の一部を電源開発費に投入する。米軍との共同開発も視野に入れ、令和9年度以降の試験運用を目指す。
ただ、極超音速兵器には着弾前に再度飛翔(ひしょう)するなど変則的に動くタイプがある。こうした兵器に対し、直進しかできないレールガンの有効性は限定的だ。
北朝鮮などは日米のミサイル防衛網突破のため、変則軌道ミサイルの開発に力を入れている。このため、政府は抑止力を示して攻撃を思いとどまらせることを狙った敵基地攻撃能力の保有も視野に入れている。
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■レールガン(電磁砲)
砲身のレールと砲弾に取り付けられた電気の通り道に当たる「電機子」に大量の電流を流し込み、強い磁場を発生させて弾を飛ばす次世代兵器。電気を動力に変える一般のモーターと同様の原理を利用する。発射時に火薬が不要で、弾を超高速で当てて物理的に対象を破壊できる。長射程のため飛来物だけでなく、遠方の艦艇などに対しても有効とされる。